ena個別秋川
「ミス・サイゴン」と帰還兵のPTSD
コメント数:0 投稿日:2025/10/03 15:10:49
皆さんこんにちは。ena個別秋川の橋本です。
皆さんは、「ミス・サイゴン」というミュージカル作品をご存じでしょうか?レ・ミゼラブル、キャッツ、オペラ座の怪人と並んで世界四大ミュージカルとされる作品の一つで、私のお気に入りの作品の一つです。最近またこの作品に触れる機会があったため、今回は私がこの作品から感じたことを書こうと思います。
あらすじ
1970年代のベトナム戦争末期、戦災孤児だが清らかな心を持つ少女キムは陥落直前のサイゴン(現在のホー・チ・ミン市)でフランス系ベトナム人のエンジニアが経営する店で、アメリカ兵クリスと出会い、恋に落ちる。お互いに永遠の愛を誓いながらも、サイゴン陥落の混乱の中、アメリカ兵救出のヘリコプターの轟音は無情にも二人を引き裂いていく。
クリスはアメリカに帰国した後、エレンと結婚するが、キムを想い悪夢にうなされる日々が続いていた。一方、エンジニアと共に国境を越えてバンコクに逃れたキムはクリスとの間に生まれた息子タムを育てながら、いつの日かクリスが迎えに来てくれることを信じ、懸命に生きていた。
そんな中、戦友ジョンからタムの存在を知らされたクリスは、エレンと共にバンコクに向かう。クリスが迎えに来てくれた−−−心弾ませホテルに向かったキムだったが、そこでエレンと出会ってしまう。クリスに妻が存在することを知ったキムと、キムの突然の来訪に困惑するエレン、二人の心は千々に乱れる。したたかに“アメリカン・ドリーム”を追い求めるエンジニアに運命の糸を操られ、彼らの想いは複雑に交錯する。そしてキムは、愛するタムのために、ある決意を固めるのだった−−−。
クリスはアメリカに帰国した後、エレンと結婚するが、キムを想い悪夢にうなされる日々が続いていた。一方、エンジニアと共に国境を越えてバンコクに逃れたキムはクリスとの間に生まれた息子タムを育てながら、いつの日かクリスが迎えに来てくれることを信じ、懸命に生きていた。
そんな中、戦友ジョンからタムの存在を知らされたクリスは、エレンと共にバンコクに向かう。クリスが迎えに来てくれた−−−心弾ませホテルに向かったキムだったが、そこでエレンと出会ってしまう。クリスに妻が存在することを知ったキムと、キムの突然の来訪に困惑するエレン、二人の心は千々に乱れる。したたかに“アメリカン・ドリーム”を追い求めるエンジニアに運命の糸を操られ、彼らの想いは複雑に交錯する。そしてキムは、愛するタムのために、ある決意を固めるのだった−−−。
これはホームページに書かれているあらすじなのですが、皆さんはこれを読んでどう感じたでしょうか?キムと恋に落ちながらアメリカに帰国後、エレンという別の女性と結婚しているクリスは人として最低なのでは?と感じた方もいると思います。しかし、ベトナム戦争に従軍したアメリカ兵の中にはクリスと同様に帰国後、様々な理由から深刻なPTSDを患った人が多くいるという歴史的背景を知ると、この物語の見方が全く変わってきます。
ベトナム戦争はアメリカが負けた戦争として知られています。アメリカ兵は国のために戦地に出向き、戦ったのにもかかわらず、彼らが帰国後にパレードで歓迎されるようなことはありませんでした。国内ではベトナム反戦運動があったこともあり、帰国後に空港で唾を吐きかけられたり、「ベイビーキラー」といった名称をつけられたりしました。家族からも冷たく扱われ、子供を含めた周囲の人からも心無い言葉を浴びさせられ続けたといいます。(実際、「ミス・サイゴン」でクリスが歌う曲の中に、「国のために戦ったが、帰国したら白い目で見られた」という歌詞があります。)
また、戦争の残虐性や戦地での仲間の死も帰還兵の心に傷を残したと言われています。ミライ虐殺事件に代表されるように、ベトナム戦争では「動くものはみな殺せ」というように年齢や性別関係なく、悲惨な殺し合いが起こっていました。その中で仲間の死を目の当たりにすることもあったといいます。帰還兵の中には、仲間が戦地で死んだのに自分だけ生き残っている罪悪感を持っていた人も多かったそうです。
このような理由から、帰国後、暴力的になったり、自暴自棄になったりした帰還兵も決して少なくありません。帰還兵の離婚率は90%以上、お酒や薬に依存した割合は38%、事故死または自殺で亡くなった帰還兵は一年間で14,000人という統計も出ています。
また、今ではPTSDという言葉は聞きなじみのあるものかもしれませんが、ベトナム帰還兵の症状にPTSDという診断名がつけられたのが最初であり、ここから徐々に浸透していったとされています。
これを踏まえたうえでもう一度「ミス・サイゴン」という作品に立ち返ってみると、クリスもまた戦争の被害者なのではないかと思えます。そんなクリスの帰国後、ボロボロになった心身を癒してくれたのはエレンだったのではないかと、私は思っています。(もちろんキムはこの間も、クリスとの間の子供を一人で育てながらクリスを待っているので、とても苦しいものではありますが…)
このように、歴史をまた違った視点から学ぶことでしか見えてこないことがたくさんあります。私も、ベトナム帰還兵がこんなにも苦しんでいたことを学ぶまで、クリスが100%悪いという目線で物語を見ていましたが、クリスもまた戦争が生んだ被害者であることに気が付いたことで、物語の見方が大きく変わりました。そして、今後は一目で決めつけるのではなく、その背景にある歴史的事実や今まで聞かれてこなかった声がないか調べてから自分の考えを持つことの大切さに気が付かせてくれた作品です。イギリスのウェストエンドの公演は映像化されているので、良かったら見てみてください。帰還兵のPTSDという視点だと、「7月4日に生まれて」という戦争映画がわかりやすいです。








